
米国の3大ER(救命救急部)といえば、ブルックリンのキングスカウンテイ、シカゴのクックカウンテイ、ロスのLAカウンテイのそれぞれの病院のERだろう。マイケル・クライントン作のテレビドラマでおなじみのERはシカゴのクックカウンテイホスピタルがモデルだ。カウンテイホスピタルというのは郡病院のことで州政府が運営している。
1988年、89年に当時の厚生省派遣の家庭医研修でブルックリン州立大学に留学したとき、2ヶ月だけだが、キングスカウンティのERをローテーションしたことがある。ERはまさにテレビドラマのERの世界で、休みなく動いている。12時間シフトだったけれど、あっという間に時間が流れるように過ぎてしまうような気がした。
ちょうど米国でエイズ全盛のころなので、ERを訪れる患者もエイズ患者が多かった。はじめてカポジ肉腫を見たのもキングスカウンテイのERだ。20代のヒスパニックの男性で、息切れで受診した。聴診をしようと胸をあけたとき、彼の胸に一面のワインレッドの母指頭大のスポットが一面に散らばっているのを見て驚いた。一緒に診ていたレジデントが「KS(カポジ・サルコーマ)だ!」と小声でささやく。胸部レントゲンを撮ると、変化はとくにない。しかし血中酸素飽和度がかなり下がっていて、入院となった。結果はカリーニ肺炎だ。
てんかん発作で受診したヒスパニックの男性も、頭部CTでリング・エンハウンスメント像が見られて、ただちにトキソプラスマ脳症と診断された。みんな麻薬常習者だった。
それにERには犯罪がらみの患者も多い。ニューヨーク市警の警官が、怪我をした容疑者をつれてきて、患者の手錠を無造作に、診察台に括り付けていくことなど珍しくない。銃創を始めてみたのもERだ。ティーンエージャーの男の子で、上腕に貫通銃創を受けてやってきた。もののみごとに銃弾が突き抜けている。本人は意外にケロッとしていて、「拳銃が安物だったから助かった」などと言っている。
さて、ここで質問です。みなさん銃弾の貫通創の消毒はどうすればいいのでしょう?
答えは簡単です。銃弾は200~300度Cの高温で射出されるので、無菌状態です。だから貫通創は消毒の必要もないのですね。