
健康を決めている要因はなんだろう? 医療の進歩が健康に関係あるのだろうか?よく「医療や医薬品が進歩したので、かつての感染症の脅威から人はまぬがれて健康な生活を営めるようになった」と言う。本当にそうだろうか?
英国バーミンガム大学のトーマス・マッキューン教授は英国の死亡率の経年変化を調べてみた。1950~52年の死亡率を100として19世紀にまでさかのぼってその死亡率の変化を調べた。するとなんと19世紀の後半、1870年代からすでに死亡率の減少が始まっていたのだ。英国のフレミング博士がぺニシリンを発見するのが1928年である。すなわち抗生物質の発見以前から、英国の死亡率は下がり始めていたのだ。この時の死亡率の低下は水道や下水の整備など環境衛生の改善が関係していると言われている(図表)。
シャーロックホームズの舞台は1880年代のロンドンだ。実はこのころのロンドンの市街地の道には馬車を引く馬の糞があふれ、ネズミが走り回り、汚染された井戸が原因でコレラが蔓延する不潔な街だった。こうした環境が改善されたことが住民の死亡率を下げる。つまり健康を決めたのは安全な水、下水道の整備のような環境衛生の改善、栄養の改善、居住環境の改善などの社会環境要因によるところが大きい。