
英国下院は2025年6月20日、終末期患者の「安楽死」を認める法案を賛成多数で可決した。賛成314票、反対291票だった。今後、上院での審議で内容が修正される可能性もあるが、スイスやオランダ、カナダなどに続く安楽死の合法化に近づいた。
合法化された場合に安楽死が認められるのは、イングランドとウェールズに居住し、余命6カ月未満と診断された成人(18歳以上)の患者。医師2人の同意のほか、弁護士、精神科医、ソーシャルワーカーで構成する専門家パネルの承認が必要となる。命を絶つ方法は、医師が用意した薬物を患者自身が摂取するとしている。
さてヨーロッパではすでに安楽死法が成立している国は多い。オランダでは世界初の安楽死法が2001年に可決され、2002年に施行された。ベルギーでは2002年に安楽死法が成立、ルクセンブルクでは2008年に安楽死に関する法律が制定され、2009年に施行された。
ドイツでは2020年、ドイツの連邦憲法裁判所は「自殺幇助を禁止することは違憲である」という判決を下した。それ以来、ドイツでは医師による自殺幇助が認められるようになっているが、まだ立法化はされていない。
さらにスペインでは2021年に安楽死を合法化し、ポルトガルでは2023年5月に安楽死を認める法律が成立した。最近ではフランスで、2025年5月、フランス下院が安楽死を合法化する法案を可決した。今後上院での審議を経る必要がある。
イタリアでは延命治療を拒否する権利を認めた「尊厳死法」が2018年に施行された。これにより医師による自殺幇助は厳しい条件付きで認められることになった。しかしまだ一般的な意味での安楽死の法律はない。
アメリカでは一部の州で安楽死が認められている。例えば、オレゴン州は1994年に「オレゴン尊厳死法」を可決した。その後、カリフォルニア州やコロラド州など、他の州でも合法化されている。
カナダでは2016年に合法化され、医師による安楽死が認められている。
コロンビアは南米で初めて1997年には末期患者に対する安楽死が非犯罪化され、2015年には正式に安楽死が法的に認められるようになった。さらに、2021年にはコロンビアの憲法裁判所が「末期患者以外でも、激しい肉体的または精神的な苦痛を抱える場合、安楽死を認める」という画期的な判決を下した。
オセアニアではオーストラリア:が2017年にビクトリア州で安楽死法が成立し、2022年には全州で可決した。ニュージーランドでは2020年の国民投票で「End of Life Choice Act 2019(人生の選択法)」が承認され、2021年11月に施行された。
アジアでは韓国が2018年に施行された「延命医療決定法」により、死が差し迫った患者が延命治療を中止することが法的に認められた。これは日本でいう「尊厳死」に近い制度だ。対象となるのは「臨終期」にある患者で、心肺蘇生や人工呼吸器の使用などの延命治療を中断できる。さらに韓国では2024年には、アジアで初めてとなる「安楽死法案」が韓国国会に提出された。これは末期患者が耐えがたい苦痛を抱えている場合に、医師の助けを得て死を選べるようにする内容だ。
一方、日本では尊厳死(延命治療の中止によって自然な死を迎えること)に関する明確な法律は、現時点ではない。ただ厚生労働省のガイドラインが2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として策定され、2018年には「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」へと改訂された段階だ。
団塊の世代800万人が大量死する2040年へむけて尊厳死法への国民的議論が必要ではないのか?