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身体拘束に関する基本法


 日本では身体拘束を規定する法律としては、介護保険法精神障害者保健福祉法がある。最近、医療においては厚労省の「身体拘束ゼロの手引き」が出たが、法律にはなっていない。これらの法律や手引きでは「切迫性」「非代替性」「一時性」という三つの要件を満たした場合に限り、身体拘束が認められる。

 杏林大学の長谷川利夫教授らは国際共同研究で、精神科で身体拘束の人口あたりの頻度の国際的に比較した。それによると身体拘束の頻度は、日本はオーストラリアの約599倍、米国の約266倍、ニュージーランドの2000倍以上にも上るという。

 オーストラリアでは身体拘束についての法律や規制がある。特に、精神保健と患者の権利に関する法律が身体拘束を規定しており、これらは患者の尊厳と安全を保つために厳格なガイドラインを設けている。

 米国では、連邦法で一般的な患者の権利保護に関する規定に身体拘束が含まれている。ただ具体的な身体拘束の制限については州法で対応している。全体として医療倫理や人権保護の観点から身体拘束の規制が進んでいる。

 ニュージーランドでも身体拘束に関して規定を設けた法律がある。「ニュージーランド権利章典法(New Zealand Bill of Rights Act)」1990年や「人権法(Human Rights Act)」(1993)だ。

 また英国でも身体拘束に関する規定が複数存在する。特に注目されるのは「精神保健施設(力の行使)法(Mental Health Units (Use of Force) Act)」(2018)だ。この法律は精神医療施設での身体拘束や力の行使について、透明性と適切性を確保するために制定された。また患者の人権保護を目的とした「人権法(Human Rights Act)(1998)にも、身体拘束に関する重要な規定を含んでいる。

 カナダでは身体拘束に関するガイドラインや法律は、各州ごとに規定されており、医療機関や介護施設での対応が慎重に管理されている。さらに「カナダ人権法(Canadian Human Rights Act)」や各州の権利章典などが、患者や入所者の人権を保護するための基盤として機能している。

 フランスでは精神医療の分野においては、「精神保健法」(Loi sur la Santé Mentale)で身体拘束を規定している。同法では、精神疾患を持つ患者の権利を守ることを目的とし、身体拘束が行われる場合には非常に厳格な基準を設けている。

 ドイツでは身体拘束に関する規定が法律や判例で明確にされている。特に、ドイツ基本法の第2条(人身の自由)と第104条(自由剥奪時の権利保護)が重要な基盤となっている。さらにドイツ民法第1906条に基づき、精神疾患を持つ人々への身体拘束については、裁判所の許可が必要とされる。

 以上みたように先進各国でも身体拘束については、精神科領域の規定が先行している。しかしその基盤として多くの国では人権法の観点がある。わが国でも憲法で定める基本的人権の規定はあるが、医療、精神、介護分野を包括する人権保護を基盤とする身体拘束に関する規定がない。このため人権保護を基盤とする身体拘束に関する「基本法」が必要なのではないか?前述したように日本の身体拘束に関する規制はいくつかの法律に分散して規定されている。しかし、統一された「基本法」がない。こうした基本法が存在することで、より明確で統一的なガイドラインや透明性が確保される可能性があるだろう。

 日本でも人権保護の明確な枠組みのもとで、身体拘束を規定することが必要なのではないか?このような法体系は国際的な基準とも一致し、社会全体での意識向上にもつながるのではないだろうか?