エッセーの投稿

バイオマテリアル発見ものがたり


 身体に埋め込んで使用する素材や材料のことを、「生体材料(せいたいざいりょう)」または英語で「バイオマテリアル(Biomaterial)」と呼ぶ。ヒトの生体組織と直接接触して機能するため、生体親和性(アレルギーや拒絶反応を起こしにくい性質)や耐久性などが厳しく求められている。

 このバイオマテリアルの発見の歴史が面白い。たとえば白内障の手術の時に使う眼内レンズは第二次世界大戦の英国で発見された。大戦中、英国のリドリー医師は戦闘機のパイロットを治療していた。当時、撃墜された戦闘機のアクリル樹脂製の風防ガラスが粉々になり、パイロットたちの眼球に突き刺さる事故が多発していた。リドリー医師は、眼に刺さったアクリル樹脂片を取り除く手術を繰り返していたが、ある奇妙なことに気づく。「金属片や他の異物は激しい炎症を起こすのに、この透明なアクリル樹脂片が眼の中に長期間入っていても、炎症や拒絶反応がほとんど起きていない」という事実だ。この気づきがもとになって、アクリル樹脂製の眼内レンズが開発される。

 歯科インプラントや人工関節の素材にはチタンが欠かせない。ふつうは金属を骨に埋め込んでも、金属と生体組織の間に線維組織が入り込んでグラグラして固定できない。しかし、チタンだけは骨と完全に結合する。この現象は、ある大学教授の「失敗」から偶然発見された。1950年代、スウェーデンのイェーテボリ大学で解剖学を教えていたブローネマルク教授は、ウサギの脚の骨の血流(微小循環)を観察する研究をしていた。そのために、ウサギの骨の内部を顕微鏡で観察しやすくする「チタン製の小さな筒(チャンバー)」をウサギの脛骨にねじ込んで数ヶ月間飼育していた。

 実験が終わり、研究員がウサギの骨からそのチタンの筒を取り出そうとしたところ、なぜか骨とチタンがガッチリと癒着していて、ビクとも動かない。ふつうの科学者であれば「素材の選択ミスだ」と諦めるところだ。ところが、ブローネマルク教授の慧眼(けいがん)は違った。「なぜ金属と骨がこれほどまでに強固にくっついたのか?」と、彼はこの現象に強い興味を抱く。さらなる研究の末、「チタンは生体内で表面に極めて安定した酸化皮膜(二酸化チタン)を作り、それが骨の細胞(骨芽細胞)に異物と認識されず、自分の骨の一部として受け入れられて結合する」というメカニズムを解明した。これが、現代のインプラント治療の基礎となる「オッセオインテグレーション(骨結合)」の発見だ。こうしチタン製のインプラントの道が花開く。

 血管の病気や心臓手術に欠かせないのが人工血管だ。実は、最初の人工血管は、研究室にあった「ありふれた衣類」から偶然生まれた。1950年代初頭、外科医たちは傷ついた大動脈などを置き換える「人工の管(血管)」を探して試行錯誤していた。当時、金属や硬質プラスチックで作られた管を移植する実験が行われていた。しかし、血栓が詰まったり、硬すぎて血管のしなやかな動きについていけず、動物実験は失敗ばかりだった。

 そうしたなか米国の外科医アーサー・ウールヒースはある日、実験室の引き出しの中で、パラシュートの紐や、自分が着ていた合成繊維のシャツ(ナイロンやビニロンなど)を目にした。「このしなやかで丈夫な繊維を、血管の代わりに編み込んだらどうだろう?」。彼はさっそく実験用のミシンを使い、合成繊維の布を細い管状に縫い合わせ、動物に血管の代わりとして移植した。驚くべきことに、生体はこれを拒絶せず、人工の繊維の隙間に血管内皮細胞が入り込んで一体化し、血栓も詰まらなかったのだ。この「布を管にする」というアイデアが、その後のポリエステル製などの現代の人工血管へと発展した。

エッセーの更新履歴

最新10件