エッセーの投稿

どうなる病院経営?~インフレへの対応~


 昨日、有楽町で古木さんのメッカル特別ウエブセミナーで「どうなる病院経営、診療材料の高騰」に関する対談収録を行いました。このときのQ&Aを紹介します。

Q1 コロナ流行で入院患者が減り、現在も患者が戻らない状況となっています。今後の病院経営の状況について見通しをお話ください。

A 入院患者数は元には戻りません。冒頭のグラフをみてください。入院受診延べ日数は新規入院件数×平均在院日数です。2001年より一貫して下がり続け、コロナで一層減りましたが、2023年のコロナ後、少し持ち直しました。しかし今後も右肩下がりのトレンドは変わりません。つまり新規入院が減り、平均在院日数が減るトレンドは変わりません。入院患者は減るのです。

 次のグラフを見てください。これは厚労省が3年に1回行っている患者調査です。

 患者調査でも入院患者数は2005年ごろより一貫して下がり続けています。とくに64歳以下の生産年齢の入院の減少が著しいです。これは高齢者入院が増えたことが影響しています。高齢化によって高齢者の入院が増え、若者の入院が減ったのです。これから若者の人口はますます減ります。入院患者が減る傾向はこれからさらに強まります。

Q2 近年のインフレで病院経営が厳しくなっています。3病院団体の2024年の合同調査でも、この5年間で病院の経費が13%も増加しています。医薬品は27.6%増、医療材料は14.4%増、人件費、委託経費、水熱光料が軒並み上がっていいます。

A こうしたインフレは過去にもありました。とくに1974年のオイルショックのときには、インフレ率が20%にも達しました。このときは中東戦争で原油価格が4倍になったため、石油関連物価の高騰が原因でした。このため病院経営も大ビンチでした。しかしことのき国は診療報酬をなんと30%以上もアップして何とか切り抜けました。

 以下のグラフの国民医療費の変化率(赤い線)の1974年のころに大きなスパイクが見られます。これがオイルショックが与えた影響です。このころはまだ日本は高度成長期にあったので、なんとかこのインフレを乗り切ることができました。しかしその後は経済は減速しはじめます。一方、国民所得にたいする国民医療費の割合(黒い線)は上昇していきます。

Q3 今回もオイルショックのときのような状態なのでしょうか?

A そうですね、ウクライナ紛争の継続で、原材料費やエネルギーコストが高騰して、いわゆるコストプッシュインフレとなっています。このため消費者物価指数(インフレ率)が診療報酬の改定率の増加分を上回って、経営難になっているのです。オイルショックの時ほどではありませんが、診療報酬をインフレ調整で上げる必要があるでしょう。

 グラフで見るように2021年から消費者物価指数が上昇し始め、これが診療報酬改定率を上回っています。これでは病院経営が行きづまるのもムリはありません。

Q4 オイルショックのときのように診療報酬を一時的にもアップする必要があるでしょうか?

A そうですね、1974年のオイルショック当時のように報酬を3割増と大幅アップすることはできないでしょうが、少なくともインフレ率を上回る改定率が必要です。そのためには財源が必要ですね。

 財源には幸いなことに税収が使えます。このところ税収が過去最高の78.5兆円にも上っています。この増収分を回せばよいのではないでしょうか?すぐに増収分を診療報酬改定の財源とできないのであれば、一時的にも国債発行をして財源としてはどうでしょうか?国債発行残高1200兆をさらに増やすのかという議論はありますが、背に腹は代えられないでしょう。このような状況では医療機関が続々と倒産してしまいます。医療機関がなくなれば国民生活に大打撃です。

 あと財源としては消費税アップもありますが、これ以上消費税を上げては経済がますます落ち込みます。また保険料アップもありますが、国民の手取りが減ってますます消費が落ち込みます。これまで財源としてあてにしていた薬価引き下げも、これ以上の薬価引き下げでは薬そのものが消えてしまいます。

 打ち出の小槌は税収アップ分か国債しかありません。いずれにせよ財政規律や緊縮財政などと言っている場合ではありません。

Q5 補助金はどうでしょうか?「病床数適正化支援事業」のように、病院が1床減らしたら400万円を病院にあたえるという補助金が大人気ですが。

A そうですね、この補助金が久々のヒットです。同補助金の1次募集分ですでに合計7170床もの応募があったそうです。今後ますます増えて最終的には5万4000床にも達するのではないかといわれています。逆に言うと、それほど病院の経営状況が悪化しているのです。まるで戦後まもなくのころ、着物や家財を売って食料を手に入れていたころの「タケノコ生活」を思い出しますね。タケノコの皮を1枚1枚売って食いつなでいたというタケノコ生活です。令和の病院タケノコ生活とも言えます。

Q6 病床がさらに減ることで患者は困りませんか?

A 確かにそうかもしれません。急に病院が倒産しては、患者も国民も困ります。しかし日本の病床は先進各国の中では過剰であることも事実です。人口1000人当たりの病床数をみると、12.6床で米国の4倍近くもあります。一方、100床当たりの医師、看護師などの職員数は日本は米国の5分の1から4分の1と少ないのです。つまり病床が多いので職員の密度が低いのです。

 この理由は以下です。1965年ころは日本も先進各国も人口当たりの病床数は同じくらいのレベルでした。ところが、1974年のオイルショックを契機に、欧米先進国は病床の構造改革を断行します。病床数を減らし、1床当たりの職員数を増やし、平均在院日数を減らす方向に舵を切ったのです。ところが、なぜか日本だけは逆に、病床を増やし、病床当たりの職員数を減らし、平均在院日数を伸ばす方向に舵を切ったのです。これは野球でいえば、ヒットを打った瞬間に日本は3塁方向に走り出したようなものです。

 以下のグラフでも明らかです。欧米先進国は病床数を絞り、平均在院日数を減らす方向に走り出したのに、日本は反対方向に走りだしたのです。そしてその誤りに気付いて大急ぎでUターンをしたのです。

 日本が病床を増やしたのは一つは1973年の福祉元年に老人医療費無料化したことが原因です。これを契機に、国際基準ではナーシングホームのような老人病院が雨後の竹の子のように増えます。これで30万床も増えました。さらに1985年に病床規制のため導入した医療計画のおかげで、駆け込み増床が20万床も起きました。2つを合わせて50万床が一挙に増えたのです。これが日本が先進各国とは異なった道を歩むことになった原因です。世の中は高度成長期でジャパン・アズ・ナンバーワンの時代でしたから、日本のゆく道が世界のルールだと思ってだれも疑わなかったのでしょうね。

Q6 これからも病床削減は続くのでしょうか?

A そうですね入院病床の構造改革は地域医療構想として続きます。とくに若者人口が減ることで、急性期ニーズが激減します。このため以下のグラフの高度急性期、急性期の病床は3割減となります。一方、高齢者のリハビリを行う病床は3倍増必要です。

 自民・公明・維新が病床1万床減らして、1兆円の医療費節減と言っていますが、これは主に急性期病床の削減を言っています。でもさきほどの病床数適正化事業に5万床以上も応募あったことから、意外に早く病床削減ができるかもしれませんね。病床が減ることで医療費が抑えられ、これを新たな財源として医療の必要な部分への投資に回すことができます。

 今回のインフレ危機はピンチですが、これをチャンスに変えることが大事でしょう。

エッセーの更新履歴

最新10件