
図表1 厚労省 新たな地域医療構想等に関する検討会資料 2024年11月8日
2040年へ向けての新たな地域医療構想のガイドライン作りが進行中だ。ガイドラインは「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」(座長遠藤久夫、学習院大学長)で、2025年7月より始まった。
ガイドラインは秋ごろに中間とりまとめを行い、2025年度内に国より都道府県あてに発出される予定だ。都道府県ではこれを受けて、2026年4月より新地域医療構想の作成準備に取り掛かり、2027年4月から本格実施の予定だ。
1 新地域医療構想の3つの変更点
新地域医療構想は現行の地域医療構想と以下の3点で異なる。1つ目は、これまでの入院医療だけの地域医療構想から、外来・在宅、介護との連携等までそのスコープを拡大した。2つ目は、これまで病床機能分類の高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能のうち、回復期機能を「包括期機能」と改めることにした(図表1)。
3つ目は、今後の地域における医療機関の連携・再編・集約化をイメージできるよう上記の4機能に加えて、以下の5つの医療機関機能の分類を加えることとした。地域ごとの医療機関機能として、以下の4つの機能、「高齢者救急・地域急性期機能」、「在宅医療等連携機能」、「急性期拠点機能」、「専門等機能」。そして広域な観点での医療機関機能として大学病院本院などの「医育及び広域診療機能」の5つだ(図表2)。
図表2

厚労省 新たな地域医療構想等に関する検討会資料 2024年11月8日
さらに新地域医療構想では、全国を人口動態の変化パターンで以下の3つの類型に分けた。「大都市型」、「地方都市型」、「人口の少ない地域型」。いずれの類型でも生産年齢人口は減るが、大都市型では高齢者人口はなお増加する。地方都市型では高齢者人口は微増となる。人口の少ない地域型では高齢者人口も減少する。高齢者人口が減少する二次医療圏は全体330の医療圏の5割程度、183区域にも及ぶ(図表3)。
図表3

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
2 新地域医療構想ガイドラインの4つの課題
こうした新地域医療構想ガイドラインには4つの課題がある。一つ目は圏域の設定、二つ目は必要病床数の設定、三つ目は4つの医療機関機能のそれぞれの医療機関目標数の設定、四つ目は医師偏在問題である。
まず一つ目の圏域の設定について見ていこう。これまで地域医療構想区域は医療計画の入院医療が完結する二次医療圏(330)を基本として設定してきた。これに対して地域医療構想区域は、地域における医療機能の分化・連携を推進する構想区域(339)として設定している。この構想区域設定がまず課題だ。これから人口減により人口20万人以下の小規模医療圏が増える。このため構想区域は複数の医療圏を統合した区域にせざるを得ない。
二つ目の課題は必要病床数の設定だ。これまでの地域医療構想で行ったと同様、4つの病床機能区分別に2040年時点における必要病床数の設定を改めて行う。必要病床数は、従来から行っている医薬品、手術・処置などの「医療資源投入量」を基に行う。この必要病床数については後述する。三つ目の課題は医育及び広域診療機能以外の4つの医療機関機能における医療機関目標数の推計だ。これを上記の大都市型、地方都市型、人口の少ない地域型の3パターンごとに設定する。そしてそれぞれの類型の中でのこれらの連携、集約、再編を進める。
新地域医療構想では、同時に在宅医療の必要量や介護施設サービスの必要量も参考にする必要があるだろう。すでに過疎地域の介護では、高齢者の人口減で、介護サービスの撤退も始まっているところもある。
四つ目は医師の偏在だ。厚労省は新しい医師偏在指標を用いて2036年における各都道府県で必要となる医師数を推計している。それによると医師偏在対策が最も進んだ場合でも12道県で合計5323人の医師不足が生じる。一方偏在解消が進まない場合では34道県で2万3739人分の不足が見込まれる。一方東京などでは1万3295人の余剰医師人員が出る。すでに過疎地域では医師の高齢化により診療所の閉院が始まっている。医師を始めとした医療人材の偏在は、医療提供体制に大きな影響を与える。
以上のような課題の中から、今回は必要病床数について見ていこう。
2 必要病床数の算定
必要病床数について、これまでの地域医療構想においても行ったと同様に、4つの病床機能区分別に2040年時点における必要病床数の設定を改めて行う。前述のようにこれまでの地域医療構想で必要病床数は、医薬品、手術・処置などの「医療資源投入量」を基に、2025年の人口動態をもとに必要病床数を割り出した。
具体的には二次医療圏単位で、患者に対して行われた診療行為を、診療報酬の出来高点数で換算した医療資源投入量の多寡に応じて、高度急性期、急性期、回復期、慢性期に区分して医療必要度を推計し、それを病床稼働率で割り戻して、病床の必要量を推計した(図表4)。
図表4

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
2040年を目標とした新地域医療構想においても、この推計方法を基本として行う。ただ新地域医療構想では、今後の受療率の変化等も踏まえ、またあるべき姿を踏まえた改革モデルに沿って具体的な推計を行うとしている。
まずこれまでの地域医療構想による入院患者数の推計と実績を比較してみよう。するとその間に大きな乖離が生じていることが分かる。乖離の原因は地域医療構想が進展したこと、医療技術の高度化、低侵襲化の結果、在院日数が短縮したこと、受療行動がコロナ渦をへて変化したこと、人口構造が変化したこと等が挙げられる(図表5)。
図表5

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
3 がんの入院受療率の減少
たとえばがん患者の入院受療率について見てみよう。がん患者の治療は従来の開腹手術から腹腔鏡下手術の普及により、大幅に低侵襲化した。このためがん患者の在院日数が短くなった。またがんの外来化学療法が増えてため、入院から外来への患者シフトが起こり入院受療率は年々低下の傾向にある。また年齢階級別にみると高齢者においてより入院受療率が下がっていることが分かる(図表6)。
図表6

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
がんは基本的には高齢者の病気だ。このため人口の高齢化に伴いがん患者は増える。しかし高齢がんの入院受療率が大幅に下がっている。理由は高齢になるに従い、根治的ながん治療は減り、保存的な療法にシフトする。またがんに限らず高齢化が進めば入院受療率は減少する。理由は高齢者にとって入院そのものがリスクとなり得るからだ。入院による床上安静は高齢者に急速な筋力低下をもたらし、日常生活動作の低下をもたらす。また入院による環境変化は高齢者に認知機能低下をもたらす。また高齢者は入院中に誤嚥性肺炎、院内感染による感染合併症を引き起こし、また転倒による骨折リスクも増す。こうした理由から、高齢者の入院はできるだけ回避するかあるいは短縮することが望ましい。
4 疾病構造の変化
疾病構造そのものが変化している。たとえば脳血管疾患が明らかに減っている。脳血管疾患には脳出血や脳梗塞が挙げられる。これらの脳血管疾患による入院が減っている。1996年に21万人いた脳血管疾患による入院が、2024年には10万人と半減している(図表7)。脳血管疾患の場合、入院患者数が減るのと同時に外来患者数も減っている。
図表7

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
この脳血管疾患の減少は、近年、減塩による食生活の改善やや薬物治療による高血圧のコントロールが功を奏しているからだろう。またt-PAなどの脳血栓融解療法などの治療法の進歩も関係しているのだろう。
おかげで回復期リハビリテーションにおける疾患パターンも変わってきた。2001年には回復期リハビリテーション病棟の入院患者の70%が脳血管疾患で、15%が整形外科疾患だった。しかしそれが2020年には脳血管疾患が45%、整形外科疾患が46%とほぼ同数になった。回復期リハビリテーション病棟における疾患別リハビリではリハビリ上限日数が疾患別に決まっている。脳血管障害は180日、整形外科疾患などの運動器では150日である。このため上限日数の長い脳血管障害が減れば、回復期リハビリの平均在院日数は減ることになる。
5 入棟する病棟で異なる在院日数
また整形外科疾患は回復期リハビリテーション病棟でも受け入れているが、地域包括ケア病棟でも同様に受け入れている。たとえばこの二つの病棟で、大腿骨頸部骨折、転子貫通骨折、腰椎骨折の在院日数を比較すると、回復期リハビリのほうが地域包括ケア病棟より長めだ(図表8)。しかし退院時の日常生活動作をバーセルインデクス(100点満点)で見ると、80点以上の患者は両病棟とも50~60%で大差はなかった。このように入棟する病棟によっても在院日数の差異が生じている。現在、地域包括ケア病棟の増加が著しい。一方、回復期リハビリテーション病棟の増加は頭打ちだ。いずれ地域包括ケア病棟の方が回復期リハビリテーション病棟より多くなるだろう。それによって整形外科疾患患者の在院日数も減少傾向になるだろう。
図表8

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
6 医療圏ごとに異なる在院日数
高齢者に多い大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折)は、日本整形外科学会のガイドラインによれば、受傷後早期の手術が重要と言われている。しかし日本では欧米より手術までの待機時間が長い。また医療圏ごとに入院から手術までの日数がばらついている。また在院日数は急性期病棟後の受け入れ先でも異なり、自院で回復期リハビリテーション病棟等のリハビリ病棟に転棟する場合より、転院によってリハビリ病棟に転棟する場合の方が、長くなる傾向がある。急性期後、速やかにリハビリ病棟に転棟できるかが、地域における総在院日数の短縮のカギとなっている(図表9)。
図表9

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
先述したようにリハビリ病棟が回復期リハビリテーション病棟ばかりでなく、地域包括ケア病棟、さらには2024年改定で新設された地域包括医療病棟などと病棟の種別が増えている。今後、急性期後のリハビリ病棟が地域においてどれくらいあるかで地域の総在院日数が変わってくる可能性がある。このため新たな地域医療構想では、それぞれの区域における必要病床数の推計は、こうした地域の病棟構成の変化に配慮して行う必要がある。
7 都道府県における病床機能報告のばらつき
前述のように地域医療構想の区域において病棟構成の異なりにより、必要病床数の推計が違ってくる。このためそれぞれの地域の病床種別や病棟構成を正確に把握する必要がある。このため地域医療構想では、各医療機関は、その病床機能報告を都道府県に報告を義務つけている。医療機関に求めている。しかしこの病床機能報告が各都道府県の間でばらついていることが問題となっている。
たとえば急性期病床の代表例である急性期一般入院料Ⅰ(旧7対1)病床の届けている実態をみると、都道府県によって大きくばらついている。急性期一般入院1の病床を急性期病床として100%届けている秋田県や佐賀県のようなところから、50%台の広島県や熊本県のようなところまで倍以上のばらつきがある(図表10)。
図表10

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
同様に地域包括ケア病棟入院料を回復期として100%近く届けているところから、20%しか届けていないところまでばらつきがある。原因は国がガイドラインを出しても、県独自の基準を設けて報告させていることにあるようだ。これでは必要病床数の推計も都道府県ごとにばらついてしまう。報告基準の統一が必要だ。
この報告基準の統一には、入院料の種類に対応する機能区分の目安をしめしてはどうか、と提案している(図表11)。
図表11

厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
以上をうけて厚労省は必要病床の推計について以下のような方針を打ち出している。
必要病床数の算定に当たっては、以下を留意すべきである。医療技術の進歩や、医療提供体制の効率化など複数の要因から入院受療率が低下している。このため受療率の低下をあらかじめ織り込んで必要病床数を推計してはどうか?また包括期機能については、急性期機能の病床に変わって、高齢者等の急性期患者を受け入れることや回復期リハビリテーション病棟の効率的な提供や、医療機関の連携・再編・集約化に向けた取り組みによる効率化等の改革モデルも組み込んではどうか?病床機能報告において、病床機能区分の選択に当たって客観的な報告が出来るように、入院料の種類ごとに対応する機能区分の目安を整理してはどうか?
以上を考慮して新たな地域医療構想では病床機能区分ごとの必要病床数の算定を行うことになる。
参考文献
厚労省 新たな地域医療構想等に関する検討会資料 2024年11月8日
厚労省 地域医療構想及び医療計画等に関する検討会 2025年10月15日
