
図表1 日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会学術大会 OTC医薬品分科会シンポジウム(2025年11月11日盛岡市)
日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会の学術大会が、2025年10月10日・11日に岩手県盛岡市で開催された。学術大会には全国から260名の参加者を得て盛会だった。同学術大会では、2日目の11日にが開催された(図表1)。
このシンポジウムの冒頭に、著者は以下の提言を公表した。「高血圧、脂質異常症など生活習慣病薬を対象にスイッチOTC化の推進する。主に1年以上同じ薬を服薬し、状態が安定した患者を対象に、かかりつけの医師と薬剤師が合意したプロトコールに沿って共同で薬物治療管理を行う。いわゆる『日本版CDTM』を導入し、医師・薬剤師連携体制を構築して進める」。
1 CDTMとは?
上記のCDTMとはCollaborative Drug Therapy Managementのことで、日本語では「薬物治療共同管理」と訳されている。以下、CDTMについて見ていこう。
2015年に厚労省の「患者中心の薬局ビジョン」においても次世代の薬剤師像が提示されている。その新たな薬剤師像は、これまでの調剤中心の対物業務から、患者中心の対人業務中心へと大きく移り変わるということだ。欧米の地域の薬局をみれば調剤業務はすでに自動化していて、日本のように薬剤師が薬剤のヒートシールをハサミで切って袋詰めしているような姿はすでにそこにはない。薬剤師の仕事は対人業務中心へと移り変わっている。
ここでは米国の薬局薬剤師に注目して、日本とは大きく異なる薬剤師の業務と、医師と薬剤師の連携や協働について見ていこう。そこには日本の薬局の未来の姿がある。
では米国の薬局薬剤師の業務を見ていこう。何といっても、欧米の医薬分業の歴史は日本の医薬分業40年より圧倒的に長い。こうした長い歴史の中で培った薬剤師業務のノウハウを見ることは日本の将来の薬剤師業務を占う上で参考になる。欧米ではすでに薬局薬剤師の業務は単なる調剤や服薬指導の域を超えて、患者とその疾患に注目した薬物治療管理の時代に移り変わっている。
こうした業務のうち今回は薬物治療管理(MTM)と共同薬物治療管理(CDTM)を取り上げてみよう。両者は医師との連携や協働の上になりたっている。
(1)薬物治療管理(MTM:Medication Therapy Management)
薬物治療管理(MTM)は、単なる調剤業務に留まらず、患者中心のケアプロセスに関わる薬剤師業務のことである。個々の薬剤に注目するのではなく、薬剤師は薬物療法マネジメントサイクルの全体に関わる。薬物療法レビューを行い、患者の薬歴、患者の薬剤に関するアクションプランの立案、アドヒアランス等への介入、記録とフォローアップ、アウトカム評価などを行う。
こうしたMTMの事例としてよく引用されるのが、米国のアッシュビル・プロジェクトだ。アッシュビル・プロジェクトとは米国のノースカロライナ州の人口7万人のアッシュビル市の薬局薬剤師がノースカロライナ大学と共に提案した薬物治療管理プロジェクトのことである。これをアッシュビル市と保険者団体が採用し、1996年からスタートした。
アッシュビル・プロジェクトでは、アッシュビル市の薬局や病院の薬剤師が中心となって患者に積極的な薬物治療管理(MTM)を行い、治療成果と医療費削減効果を得る事に成功した。対象疾患は糖尿病、気管支喘息、高血圧、脂質代謝異常症、うつ病の患者で、薬剤師は定期的なカウンセリングを薬局でおこなって患者の治療支援を行う。参加する薬剤師は事前にトレーニングを受けてその実施にあたる。基本は薬剤師と患者が薬局のカウンセリングルームで向き合って、血糖値、血圧を見ながら服薬指導や生活指導を行う。このときの薬剤費やカウンセリングフィーは患者がカウンセリング継続を条件として市が負担して、患者は無料である。また薬剤師にはカウンセリングフィー(1~2ドル/分)を市から受け取る。
このプロジェクトによって患者の服薬アドヒアランスが向上し、5年間で一人当たり医療費の34%(2400ドル)の総額医療費の削減に成功した(図表2)。この削減効果の大きな部分は糖尿病の高血糖や低血糖などによる救急受診や入院が減ったことによるものであった。アッシュビル市としても、この医療費の節減額の方が、先のカウンセリングフィーの薬剤師への支払いや患者薬剤費の無料化の投資額を上回ったので、このプロジェクトはその後、全米に広がり100以上の企業や保険団体がアッシュビル・プロジェクトを採用するに至ったという(図表2)。
図表2

(2)共同薬物治療管理(CDTM:Collaborative Drug Treatment Management)
次に共同薬物治療管理(CDTM)について見ていこう。CDTMは、米国臨床薬学会(ACCP)の定義によると、以下の通りだ。「一人以上の医師と薬剤師の間の共同実務契約(CPA:Collaborative Practice Agreement)を取り交わし,その契約のなかで,資格を付与された薬剤師は,プロトコールとして規定された内容に沿って働き,患者を評価し,薬物治療と関連する臨床検査を指示し,医薬品を投与し,投与計画を選択し,開始し,モニタリングし,継続し,修正するなどの専門的な責務を担うことが許される」。
CDTMと前述のMTMの違いは、患者に対する薬物療法の適正化という目的は同じであるが、MTMは従来の法律の範囲内で実施でき、必ずしも新たな契約や法律変更を必要としないことにある。一方CDTMは米国では州法の改正が必要であることと、CDTMの方がより多彩な業務が含まれており、医師との事前契約を必要とする点がMTMとの違いとなる。
CDTMの歴史を振り返ると、1970年代のカリフォルニア州及びワシントン州での制度樹立に始まる。当時、患者のケアを向上させるために専門的訓練を受けた有資格の薬剤師が薬の処方をすることから始まった。そして1980年代に上記の州で法案が通過し、薬剤師が医師と共同で作成したプロトコールに基づいて薬剤師が処方することが正式に可能となった。現在、このCDTMを州法で認めていないのはわずかオクラハマとアラバマのみという状況になり、全米のほとんどの州でCDTMは実施されている。
CDTMの現状は、医師及び薬剤師の間で交された、CPAをもとに、薬剤師の行為、行動の手順を定め、その役割、手続き及び従うべきプロトコールに基づき実践する。この条件のもと、ある一定の診療範囲の下では、薬剤師に限定的な処方権や検査オーダー権を医師から移譲されることになる。また薬剤師が契約やプロトコールに基づいてワクチン接種を行うところもある(図表3)。
図表3

CDTMの主たる薬剤師業務は、MTMと同様、高脂血症、喘息、抗血液凝固、糖尿病、高血圧等の生活習慣病に関する慢性疾病管理に特化したプログラムである。
次にCDTMの実施事例を見ていこう。まず最初の事例はミネソタ州のフェアビュー・ヘルス・サービスの事例である。フェアビュー・ヘルス・サービスでは、6カ所のプライマリケアクリニックにおいて、1999年にCDTMを導入した。特別な訓練を受けた薬剤師は「認定ファーマシューティカルケア・プラクティショナー」としてフェアビュークリニックの院長と契約を結び、クリニックおよび薬局においてCDTMを実施した。2004年までに、4000人以上の患者に対して、12000件以上の薬物治療に関わる問題を特定し解決に導いたという。
二つ目の事例は、テキサス州のスコット&ホワイト・ヘルスプランの事例である。スコット&ホワイト・ヘルスプランでは、当初は糖尿病と心不全が対象とし、その後、喘息と高血圧にも実施した。薬局の薬剤師は医師と契約を締結、薬剤師は加入者と毎月面会し指導を行った。評価については、糖尿病患者については比較対照群と比べたところ、血糖コントロールは介入群が良好であった。薬剤費と外来診療費用は増加したが、入院費用が低下したため、トータルでは医療費削減につながった。
三番目の事例はジョージア州のカイザーパーマネンテ・オブ・ジョージアである。カイザーパーマネンテ・オブ・ジョージアはアトランタ地域の保険者である健康維持組織(HMO)で、15医療機関をもつ、加入者数は25万人以上を有する。CDTMの対象患者は脂質異常症、糖尿病、高血圧、冠動脈疾患等である。臨床薬剤師とプライマリケア医により事前に患者ごとのプロトコールが作成される。プロトコールは2年間有効である。プロトコールには、薬物療法の変更、薬剤量の変更、検査値のモニタリング、アスピリン治療の開始のアルゴリズムなどが含まれている。
同プログラムでは医師、薬剤師の情報共有のために電子カルテ(EMR)を活用している。検査が必要な患者、治療目標に達していない患者、医師の診察を1年以上受けていない患者などを電子カルテ上で特定できる。患者も電子カルテを閲覧したり、医療者にメッセージを送ったり、検査結果を見たり、受診の予約を入れたり、薬剤のピックアップや配送に関する注文を行うことなどもできる。
2 我が国の現状と日本版CDTMの提案
以上、米国の薬剤師像を振り返ってみてきた。実はわが国でもMTM/CDTMの考え方については、すでに2010年4月の厚生労働省の医政局通知「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」として一部、提案がなされている(参考文献1)。通知では「薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること」(図表4)と述べている。
図表4

こうした動きに連動して、日本病院薬剤師会では、「プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM:Protocol-Based Pharmacotherapy Management)」を推奨している(参考文献2)。日本病院薬剤師会によれば、PBPMとは、医師・薬剤師等が事前に作成・合意したプロトコールに基づき、薬剤師が薬学的知識・技能の活用により、医師等と協働して薬物治療を遂行することである。PBPM の実践は、薬剤師の専門性の発揮によって薬物治療の質の向上や安全性の確保、さらには医師等の業務負担軽減に寄与し、今後のチーム医療の発展に大きく貢献するものと期待される。
この日本のPBPMは医政局通知に基づくもので、法制化が行われていないところから、米国でのMTMに近いものかもしれない。これを今後一歩進めて米国のCDTMレベルまでに高めていくには法改正が必要かもしれない。しかしこれではハードルが高すぎる。先の医政局通知は院内の薬剤師と医師の間でのプロトコールの作成であった。これを地域全体に拡張して、薬局薬剤師と医療機関の医師との間までに広げてはどうか。こうした地域版のPBPMを日本版CDTMと規定してはどうか?これであれば局長通知か省令の改正で済むはずだ。ぜひとも早急な日本版CDTMの環境整備を行うことに期待したい。
参考文献
1)厚生労働省医政局長通知(医政発0430第1号)「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」 2010年4月
2)一般社団法人 日本病院薬剤師会「プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の円滑な進め方と具体的実践事例(Ver.1.0)」平成28 年3 月31 日
