
衣笠病院の外来は多国籍だ。中国人が多い。南米移民の二世、三世もいる。でもアフリカから来ている患者さんは珍しい。中でもカメルーンの患者さんは珍しい。
彼は40歳台の日本に出稼ぎに来ているカメルーン人だ。糖尿病で通院している。5年前に、初めて外来であったときは久しぶりに若い時に留学していたブルックリンの外来を思い出した。漆黒の肌の色だ。
彼は会うなり最初に「ドクター、フランス語は話せるか?」と聞いてきた。「いや話せない。英語でお願い」と答えたことを覚えている。カメルーンはフランス統治が長かったのでフランス語が公用語だ。サッカーの強豪国としても有名だ。彼は建築現場で働いているという。それから2か月に1回の通院が始まった。経口糖尿病薬でコントロールがされている糖尿病なので、診察の合間に仕事の話や国に残してきた家族の話を聞いていた。毎回、予約日には必ず現れて、模範的な患者だ。
ところがある日、予約時間に現れなかった。どうしたんだろうと思っていたら、お昼近くにようやく現れた。「どうしましたか?」と聞くと「新しい職場のインタビューに行ってきた」。新しい職が見つかったという。「それはよかった。ハッピーか?」と聞くと、「ハッピーだ。でも職場に近いところに引っ越すので、職場の近くの大学病院に紹介状を書いてほしい」という。「わかった、紹介状を書く」と答えた。
5年近くも毎回見ていた患者さんなので、ちょっと寂しい気はした。紹介状を書いて、最後の処方箋を発行して渡すとき、彼が「God bless you!」と声をかけてくれた。「 Bless you too!」と答えた。
カメルーンからは日本に1700人が働きにきているという。人口減少の日本は外国人労働者に頼っている。現在270万人もの外国人労働者が国内を支えている。衣笠病院の外来の片隅から垣間見る外国人労働者の姿だ。
