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マンハッタンの訪問看護


 ブルックリンの大学病院でファミリープラクテイスの留学をしていたとき、マンハッタンの巨大な訪問看護ステーションを見学した。それがニューヨーク訪問看護サービス(VNSNY :Visting Nurse Service of New York)だ。VNSYの歴史は1893年にニューヨークの貧困層の結核患者のために二人の若い看護師がはじめた小さな訪問看護事業所からスタートする。

 以来120年、いまではニューヨーク市内から近郊までカバーするニューヨーク最大の規模の事業所に成長した。現在のVNSNYは、看護師数はなんと2500人、そしてリハビリセラピスト700人、ソーシャルワーカ600人、ヘルパー6000人、栄養士140人あまりを擁していて、毎日3万件の訪問を行っている。 さて訪問看護師に求められるのはいつの時代でも患者宅を素早く訪れるための機動性である。このためVNSYの創始者の一人のリリアンは、1890年代のマンハッタンのビルの屋上から屋上へと近道を移動して患者宅を訪問したという(写真)

 さて、米国では訪問看護の質評価が現在の話題だ。先に紹介したVNSNYも訪問看護サービスの質評価と改善活動に力をいれている。一般にサービスの質評価と改善活動はプロセス評価とアウトカム評価の指標と、その指標改善からなる。訪問看護の場合、プロセス評価は糖尿病ケア、創傷ケア、心不全ケアなど疾病別ケアマネジメントの評価である。それぞれのケアマネジメントが文書化されているかどうかや、実際のケアをモニターすることで評価する。またアウトカム評価も行われていて、その指標としては「急性期病院の入院率」や「日常生活動作の改善率」が用いられている。

 たとえば「急性期病院への入院率」を例にとってその評価と改善活動をVNSNYで実際に行われた例について見てみよう。まず入院率の目標設定は以下のように行う。「在宅ケア患者の入院率を5%下げる」。入院医療費が高騰しているニューヨークでは、これだけで米国の公的保険のメディケア15 億ドル節約の見込みとなるという。

 実はVNNYで調べてみると退院後14日以内の再入院が多いことが分かった。理由は以下である。退院後に患者(家族)、病院、開業医、訪問看護事業所の4 者のケアの方向性がばらばらで、しかも相互に連携がとれていないために再入院が多い事が分かった。このため退院後14 日間において訪問看護師が関係者をコーデイネートして、患者が確実に服薬できるような環境を整えたり、退院後14日以内の期間に医師の診察と入院のリスク・アセスメントをして、場合によって訪問間隔を縮めていくことや遠隔医療(テレヘルス)でバイタル管理を密に行うことを実施した。これらの活動によってVNSNYは、目標の「在宅ケア患者の入院率を5%下げる」ことに成功した。

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