エッセーの投稿

合計特殊出生率と宗教とナショナリズム


 日本の合計特殊出生率は2024年1.15で、過去最低を更新した。また、出生数は統計史上初めて70万人を割り込んだ。

 しかし世界を見渡すと、イスラエルのように合計特殊出生率2.28の国もある。何がそれぞれの国の合計特殊出世率に関係しているのだろう。原因はいくつかあるが、中でも大きいのが宗教とナショナリズムだ。イスラエルがその典型だ。イスラエルの場合、ユダヤ教の超正統派(ハレーディーム)では、子どもを多く持つことが宗教的な義務と見なされている。このため一家族で6人以上の子どもを持つことも珍しくない。

 そしてイスラエルの場合、ナショナリズムが大きく影響している。イスラエルは周辺のアラブ諸国やパレスチナ人に対して人口優位の政策が取られている。国を守るために人口増加政策に力をいれている。実際に2023年10月のイスラム主義組織ハマスによるイスラエル奇襲後、ナショナリズムが高揚してイスラエルではベビーブームが巻き起こった。

 日本の戦前の「産めよ増やせよ」政策も戦争準備のための国策だ。特に、1941年に閣議決定された「人口政策確立要綱」では、一家庭あたり平均5人の子どもを目標とし、多産を奨励した。

 実はフランスでは今でも戦前の日本と同じような人口政策を取っている。フランスとドイツは1870年の普仏戦争(ふふつせんそう)以来、2度の世界大戦で領土を巡って戦禍が絶えなかった。このためフランスは隣国のドイツに対する人口優位政策に今でもこだわっている。フランスの政治家は今日でも出産奨励を公言してはばからない。このため少子化予算も国防と言う観点から積極的だ。またフランスはカトリックの国と言う点からも家族政策にも力を入れている。これによりフランスの合計特殊修正率はドイツよりも高めだ。

 このように宗教が合計特殊出生率に与える影響の例も多い。フィリピンなどのカトリック国家では、避妊や人工妊娠中絶への否定的な教義により、比較的高い出生率を維持している。またイスラム教徒が多い国、例えばアフガニスタンやパキスタンでは、結婚や子どもを持つことが宗教的に奨励されており、高い出生率を示している。これには家族中心の文化や、子供が社会的・経済的資産と考える背景もある。

 ナショナリズムが合計特殊出生率にもたらす影響も大きい。先のイスラエルでも宗教的な価値観とともに国家の存続の観点から、人口増加政策が重要視されている。

 また東欧の国ハンガリーでもナショナリズムに基づく家族支援政策を実施しており、多産家庭に対して経済的なインセンティブを提供している。

 そしてロシアでも愛国心や国家主義を背景に出生率向上を目指す政策を取っている。ウクライナとの戦争で100万人にも達する戦死・戦傷者を出しているロシアでは「母親英雄賞」など、子どもを多く持つ家族を称える制度を行っている。

 このように人口政策の背景には国の安全保障や国力維持などのナショナリズムと、その根底には宗教による影響が横たわっている。

 人口問題の世界のリアルを知っておくことも大切だ。