
大手の企業などからなる健保組合の後発品使用割合が2024年10月時点で90%を超したことが分かった(図)。後発品の供給が出荷調整や欠品などで不安定ななか、目を疑うような上昇率だ。それも2024年9月から10月にかけて3.5ポイントも急に伸ばしている。何があったのだろうか?
考えられるのは2024年10月から、後発品のある先発品に対して選定療養による自己負担増が始まったことだ。先発品から後発品への置き換えを促進するため、後発品があるにもかかわらず先発品を使いたいという患者に対しては、病院の差額ベッド代と同じように選定療養と言う特別料金を徴収するようになった。特別料金は先発品の薬価と後発品の薬価の差分の4分の1を自己負担に上乗せした。この対象となる医薬品は、「発売より10年が経過して特許が切れた先発品」のうち、「後発品発売より5年経過したもの、あるいは後発品への置き換えが5割を超えたもの」で、約1000種類の薬剤が対象となった。
この上乗せ分が効いた。とくに先発品と後発品の薬価差が大きい医薬品ほど自己負担分の上乗せ分が増える。たとえば皮膚保湿効果のあるヒルドイド軟膏などは、400㎎も処方すると、選定療養で先発品が1400円も高くなる。
このため10月になったとたん、それまで「絶対に後発品はいやだ」と言っていた患者さん(中年の女性が多い)が、「先発品が高くなったので、後発品でもがまんする」と言って後発品に切り替えることが相次いだ。おかげで全国的に後発品の使用割合がアップした。都道府県で最も高い後発品使用割合は沖縄は94.5%となり、最低は徳島でも89.1%になった。このため徳島を除いてすべての都道府県で90%超を達成した。
この選定療養は18歳以下の小児医療費を無料化している自治体でも適応される。港区にある大学病院にいたころ、院内調剤をしている大学病院で後発医薬品への置き換えをしたことがある。その時、真っ先にクレームが出たのが小児科の患者さんの母親からだ。「なんで無料なのに後発品を出すのか?」と言う。これに根を上げたのが小児科の医者だ。「母親への説明が大変だから先発品に戻してくれ」という。今回のような選定療養が当時あったのなら、「先発品を使うとこれからは小児でも自己負担が生じますよ」と言えた。
実はこの小児無料のおかげで小児にではこれまで後発品の普及率が低かった。しかしこれが今回の選定療養のおかげで小児にも後発品が普及するきっかけとなった。実は沖縄で後発品の普及率がもともと高かった一因は、財政力の低さから小児医療費の無料化が6歳以下の小児に限定されていたことにもあった。
選定療養の威力をあらためて思い知った後発品90%超のニュースだった。