
聖書が示す「福祉」とは慈しみの心とその実践だ。たとえば「マタイによる福音書」25章では、飢えた人に食べ物を、渇いた人に水を、病人や囚人を訪ねることが「神への奉仕」とされていて、これがキリスト教の「慈善」の核心だ。つまり、困っている人に手を差し伸べることは、神に仕えることと同じということだ。
ルカによる福音書でも、貧しい者や女性への配慮が強調されていて、「福祉の福音書」とも呼ばれている。また「百匹の羊のうち一匹を見失ったら、その一匹を探しに行く」というたとえ話(ルカ15章)のように、聖書ではひとりひとりににこだわる姿勢が強調される。またマタイ28章では「わたしは世の終わりまであなたがたと共にいる」と語られているように、人に終生寄り添う姿勢が福祉の理念として重んじられている。
ではこうしたキリスト教福祉が、近代的な制度としての福祉になったのはいつだろう?
それは英国の女王エリザベス1世が定めたエリザベス救貧法(1601年)を嚆矢とする。この背景にもキリスト教が係わっている。当時、宗教改革の影響もあって教会や修道院の力が衰えていく。このため従来のキリスト教による慈善活動が機能しなくなっていく。
そうしたとき英国で起きたのがエンクロージャー(囲い込み)運動だ。これは毛織物産業の発展により、地主たちが領地で羊を飼うため、農民を追い出し、土地の囲い込みを行った運動のことだ。つまり地主たちが農業よりカネになる牧羊業に転換したのだ。これによって土地を追われた農民が生活に困窮する。
これに対してエリザベス女王が行ったのが、「救貧法」を制定して、教会の教区ごとに「救貧税(Poor Rate)」を徴収することとした。この税は、各地域の教会の教区が責任を持って税を徴収し、貧民監督官がその税をもとに困窮した農民への支援を行った。
つまりエリザベス救貧法はキリスト教精神を近代的な福祉制度へと転換した初めての法律となった。この法律により税を財源とした貧困者を救済する近代福祉がスタートする。
