
月曜日の外来は新患でごった返していた。待合室では待っていられなくなって処置室のベッドで横になって待機している新患さんが3人もいた。そしてちょうど感染性腸炎で嘔吐、下痢の患者さんが多い日でもあった。
その処置ベッドで横たわっている92歳の高齢女性がいた。土曜日に嘔吐で受診していて感染性腸炎と診断されたが、嘔吐が止まらず再度来院された。食事をするたびに嘔吐して、食事もとれないといって息子さんに連れられてやってきた。下痢はないというので、「ちょっとヘンだな?」と思った。でも嘔吐で食事もとれていないので脱水気味だと思い、急患担当の内科の竹永先生に連絡した。
その間、他の処置ベッドの患者の検査や、通常の予約患者さんを診察していた。するとしばらくして竹永先生が「さっきの患者は小脳梗塞だ」と言う。「え~!?小脳梗塞?」と思った。CT画像をみると右小脳半球の梗塞だ。こちらの頭は流行している感染性腸炎で一杯だので、まさか小脳梗塞とは思わなかった。診断した竹永先生の慧眼ぶりにびっくりした。
さてポルトガルにあるサンタマリア病院を受診した187名の脳梗塞の方を調査した調査がある。すると22%の脳梗塞の患者が発症後12時間以内に吐き気または嘔吐を訴えていた。この吐き気や嘔吐は,頸動脈領域の脳梗塞(10%)よりも、小脳に血液を供給する椎骨脳底領域の脳梗塞(45%)でより頻繁にみられという。この高齢女性も椎骨脳底領域の梗塞なのだろうか?
忙しい外来でも「ちょっとヘンだな?」と思う気持ちがあれば、立ち止まって深堀して考えることが大事だと思った。