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腸腰筋膿瘍


 ゴールデンウィークの連休の谷間の外来は、毎年新患でごったがえす。というのも連休の前半に具合が悪くなった患者が外来が開くと同時にやってくる。また後半の休みに備えて、老人施設などからの紹介患者が殺到する。休み中に具合が悪くなる前に診てもらおうというわけだ。 そんなわけで連休の谷間に、老人施設からの紹介患者が何人も来院された。そんな中に92歳の高齢女性がいた。

いつも紹介してくれる老人施設附属クリニックの先生から「微熱と食欲不振を訴えているので精査をお願いします」とのことだ。見ると小柄な高齢女性で受け答えもしっかりしている。微熱の原因を調べるため検査をオーダーした。高齢者の発熱の原因の御三家は尿路感染、肺炎、胆嚢炎だ。このため検査では、炎症マーカーのCRPと白血球を調べること、尿検査をすること、胸部レントゲンを撮ること、肝機能を調べることだ。

 するとCRPが13もある。白血球も1万9千もある。尿検査で白血球が3プラスなので、尿路感染は間違いないだろう。また念のため撮影した胸部レントゲンには所見はない。肝機能にも問題はないので胆嚢炎でもない。ということで、「尿路感染で決まり」と思った。

 でもCRPの値や白血球の値が高すぎるのが気になった。そこで急患当番の内科の南次郎先生に後をお願いした。

 すると夕方の会議で隣に座った南次郎先生から、「さっきの患者さんはCTを撮ったら腸腰筋膿瘍だった」と言う。「え~腸腰筋膿瘍ですか?!」と思わず言った。腸腰筋膿瘍は医学部の学生の時習った。その原因は当時は結核性の脊椎カリエスで、脊椎から膿が腸腰筋を伝って溜まり膿瘍を作るというものだ。病理の教授がしたり顔で「沈下膿瘍(Senkungsabszess)とも言う」と言っていた。

 それにしても腸腰筋膿瘍を見るのは初めてだ。今回の腸腰筋膿瘍は腎盂腎炎が原因だろう。90歳のお年寄りからはどんな病名が飛び出すか分からないと思った。 

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