エッセーの投稿

高齢者の失神発作


  ペースメーカーの父、田原淳

 高齢者に多いのは失神発作だ。よくあるのは起立性低血圧で立ち上がる際に血圧が急激に低下し、一瞬意識を失って転倒する。その他、自立神経の調整不全による失神も多い。食後や排便後に低血圧になって失神する、お風呂に長湯してヒートショックで失神するなど、よくあることだ。

 先日も衣笠病院の外来に、老人ホームで食事中に失神発作を起こした患者さんが来院された。もともと心房細動による不整脈もある。食事中に急に意識を失って姿勢が保てずテーブルにもたれかかるように倒れたという。数分で意識がもどったがご本人は全く記憶がないという。老人ホームの職員によるとその時は脈拍が40くらいしかなくて徐脈だったという。

 こうした高齢者で多いのが、徐脈頻脈症候群だ。心臓の脈拍を調律するペースメーカーである刺激伝道系の異常だ。洞不全症候群とも言う。このため急な徐脈で、血液が十分に脳に運ばれず失神する。場合によっては人工ペースメーカーを装着する必要もある。

 さて心臓の拍動を調律する刺激伝道系の一つである房室結節を発見したのは田原淳(たわら すなお)と言う日本人だ。田原は1873年、大分県中津で生まれた。東京帝国大学医学部を卒業後、心臓病理学の研究を進めるためにドイツのマールブルク大学へ留学し、著明な病理学者であるルードヴィッヒ・アショフ教授に師事した。

 そして教授のもとで1905年に心臓の「房室結節」を発見した。羊の心臓の連続切片を顕微鏡で観察して発見した。このため房室結節はアショフ・田原結節とも呼ばれている。このノーベル賞級の偉業により田原淳は現代の不整脈診断やペースメーカー技術の基礎を築いたと言える。このため田原はペースメーカーの父とも呼ばれる。

 ちなみに先ほどの失神発作の高齢者には24時間心電図であるホルター心電図を予約した。その診断結果によってはペースメーカーが必要になるかもしれない。

エッセーの更新履歴

最新10件