エッセーの投稿

リングカッター


 若いころ旧国立横浜病院で外科の救急当番をしていたことがある。いろいろな患者さんがやってきた。オートバイ事故による挫傷やフォークリフトに挟まれた肝外傷の患者など重症の患者さんもいたが、多いのはちょっとした外科処置の患者さんだ。

 ときどき指輪が取れなくなったという人もくる。石鹸を使ってぬるぬるにしても取れないという。そういう時は救急外来に備え付けのリングカッターのお出ましだ。リングカッターを指輪と指の間に滑り込ませて、歯車を回してカットする(写真)。

 釣り針の針を手に刺した患者もくる。釣りの最中に間違って釣り針を指にさしてしまう。この処置は簡単だ。釣り針のつり糸がついている部分をカッターで切断し、針が皮膚に侵入した方向に針をさらに押しこむ。針には返しがついているので、引き抜こうとすると傷口を大きくする。そのまま押し込めばすっと抜ける。

 夏の夜に耳に虫が入り込んだ子供がやってきた。虫を追い出すのはペンライトで耳の穴を照らすだけでよい。たいていの羽虫は光に引き寄せられて、しずしずと出てくる。

 子供で多いのが肘内障だ。手を引っ張られてひじ関節が脱臼する。こういうときは指を肘関節の外側に充てて固定して、前腕を回内させる。クリッと音を立てて脱臼がなおる。

 あとおかしな直腸内遺物にもお目にかかった。「ビールの小ビンの上に座ってしまってビンが肛門から入ってしまった」という訴えの患者さんだ。レントゲンを撮ると、ビールの小ビンが骨盤内にまっすぐに立っている。結局手術になった。退院時に患者さんには「ビールの小ビンの上に座らないでくださいね」とお願いした。

エッセーの更新履歴

最新10件