
80歳台のいつもは元気な商店街の店主が、息切れと左足の痛みで息子に連れられて外来やってきた。息子さんが言うには「普段は元気に店の仕事をしているが、最近、足のむくみと痛みが強くなって、歩けなくなった」という。近くの整形外科に行って、薬をもらったけれどよくならないという。
早速、下肢を見てみた。両側とも浮腫でパンパンだ。とくに左足の足背は冷たく青ざめていて、足背動脈の拍動も触れない。「あらASOじゃない?!」と思った。タバコは何本吸いますかと聞いた。「1日5~6本だ」という。
早速、血液検査、尿検査を行った。案の定、D-ダイマーは9以上、BNPが4ケタの高値だ。HbA1cも高い。閉塞性動脈硬化症(ASO:Arteriosclerosis Obliterans)に加えて急性の血栓症を発症したのだろう。しかも心不全も糖尿病もある。胸の写真では心拡大と両側の胸水だ。あきらかな心不全の所見だ。息切れはこのためだ。
この患者さんは今までは元気だったので、医者にもかかったことがないと言っていた。下肢の動脈エコーの検査をオーダーして、結果をみたら、総大腿動脈の血流が低下している。やっぱりASOに間違いない。
ASOは、下肢の動脈が動脈硬化で閉塞して、血流がいかなくなり、足の痛みがでる。症状としては間欠性跛行が有名だ。歩くとふくらはぎが痛くなって、びっこをひくようになる。すこし休むとよくなる。その繰り返しだ。それで間欠性跛行と呼んでいる。
この症状によく似ているのが脊柱管狭窄だ。こちらは腰椎の脊髄が入っている脊柱管が狭くなって脊髄を圧迫して足の痛みがくる病気だ。二つはよく似ているので間違えやすい。ASOの跛行(はこう)は血管性間欠性跛行、脊柱管狭窄の跛行は神経性間欠性跛行ともいう。二つの違いはASOの場合は下肢の血流が悪くなるので、足背動脈を触診すればすぐわかる。拍動がないのだ。一方、脊柱管狭窄では足背動脈の拍動は問題ない。それに脊柱管狭窄の痛みは臀部から下肢にかけて痛みがあるが、ASOはふくらはぎだけだ。また脊柱管狭窄の痛みは前かがみの前屈姿勢をとるとよくなるのも特徴だ。一度、自転車にのると痛みがよくなるという脊柱管狭窄の患者さんがいた。前屈姿勢で脊柱管が広がり、脊髄の圧迫がとれるからだ。
外来ではこのようによく似た症状で間違えやすい疾患に時々出会う。間違えやすい疾患二つをペアで覚えておくことが鑑別診断のコツだ。
