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痛みのない十二指腸潰瘍


 外来で痛みのない十二指腸潰瘍に出会った。50歳代の男性で、内視鏡で立派な十二指腸潰瘍なのに、まるで痛みがないという。本人も痛みがないので病気であるという意識がない。内視鏡の後に出された胃酸を抑える薬を「飲まなければならないですか?」と聞いてくる。「こんなに立派な潰瘍があるんですよ」と電子カルテの上で画像を見せても、涼しい顔で「まるで症状がないので・・・」と言う。

 これまで十二指腸潰瘍といえば痛いものと思っていた著者も拍子抜けしてしまう。実は十二指腸潰瘍でも「痛みがほとんど、あるいは全くない潰瘍」も実際のところある。浅いびらんの十二指腸潰瘍では無症状のまま経過することもある。とくにロキソニンなどの鎮痛剤でできる十二指腸潰瘍では痛みが出にくい。気づかないうちに十二指腸潰瘍や胃潰瘍ができている。潰瘍からの出血で便の色が黒くなったり、貧血気味になって初めて内視鏡をして判ることもある。中には突然の激痛で、十二指腸や胃に穴があいて初めて潰瘍だとわかることもある。

 一度、軽い胃痛を訴えて外来にこられた70歳代の男性に、翌日の胃内視鏡の予約をしたことがある。翌日、胃内視鏡のため来られたその方は検査の前に激痛を訴えて検査どころではなくなった。結果は十二指腸潰瘍で穴が開いて緊急手術になった。高齢者の十二指腸潰瘍は穴があくまで気づかないケースもある。

 関節痛などでロキソニンを長期間服用している、ピロリ菌が陽性なのに放置している方に多い。さきほどの無症状の十二指腸潰瘍の患者さんもピロリ菌陽性で、さっそく除菌のためボノサップを1週間服用してもらった。

 ところで潰瘍のできる場所は決まっている。それは「胃酸を分泌する粘膜に接した胃酸を分泌しない粘膜にできる」という法則だ。胃酸を分泌する胃に接しているのが十二指腸だ。このため十二指腸に潰瘍ができる。また高齢になると胃酸を分泌する胃粘膜は胃の上部のほうにせりあがってくる。このため高齢者の胃潰瘍は胃の高い位置にできることになる。いわゆる高位性の胃潰瘍だ。

 さらに1度、小腸のメッケル憩室に異所性胃粘膜ができて、その境界の小腸に潰瘍ができた例にお目にかかったことがある。原因不明の貧血で、放射線科医が胃粘膜にあつまる放射性同位元素のテクネシウムで、小腸にホットスポットを見つけて診断がついたことがある。この例も痛みは全くなかった。

 痛みのない胃十二指腸潰瘍に要注意だ。

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