エッセーの投稿

活動と参加


衣笠病院グループでは訪問リハビリも行っている。著者もときどき訪問リハビリに同行して患者のお宅を訪ねている。患者さんのお宅で理学療法士さんやケアマネさん、患者さんとその家族とサービス者担当会議を開くこともある。

 先日も94歳のもと高校の社会科の先生のお宅にうかがった。腰痛が悪化して日常生活動作が低下して、リハビリ目標の再調整を行うためのサービス担当者会議だ。高校の先生だった方らしく、律儀で理学療法士さんの指示もきちんと守る方だった。ただ腰痛で服用したリリカの副作用もあって元気がなく、いつもより一回りも小さく見えた。

 理学療法士さんの指示で立ち上がり動作や屋内歩行の様子を観察した。一段落したところで、「今、一番されたいことは何ですか?」と聞くと、「隷書(れいしょ)を書くのが楽しみ」と言う。娘さんによると「隷書を書くために2階にあがり、なにやら書いている」とのことだ。するとご本人は「締め切りがあってね・・」と言う。「締め切りって何ですか?」と聞くと、「隷書の作品の発表のための締め切り」だという。

 「なるほどこれが活動と参加だね」とPTさんの方を向いて言うと、「ICF(国際生活機能分類)のコードにも書字のコードありますよ」と言う。「活動と参加」とはICFの基本概念だ。「活動」とは生活動作や家事、仕事などの活動のこと、「参加」とは社会参加のことだ。身体リハビリに偏重していたこれまでのリハビリを生活全体の中でとらえなおすのがICFの考え方だ。頭では分かったつもりでいても、現場の中で見るとより具体的にその意味を理解することができる。

 それにもう一つ気づいたこともある。社会参加には「締め切り」の概念が大事だという事だ。「いつまでに」という約束が社会生活には不可欠だ。締め切りはそうした社会活動のルールだ。締め切りによって痛む腰も我慢しながら2階に手すり伝いに登っていくご老人の後ろすがたに、訪問リハビリは「高齢者の社会参加」をお手伝いしているのだと実感した。

エッセーの更新履歴

最新10件