
今日の月曜外来はいつものように初診患者で混んでいた。70代の男性が奥さんと一緒に心配そうな面持ちで診察室に入ってきた。開口一番、「みぞおちの痛みで、すい臓がんだと思います。ネットで調べたら症状がそっくりで覚悟を決めてやってきました」と言う。なんと「遺書まで書いてきた」という。ずいぶん気の早い方だと思った。
「ではまずご心配のすい臓がんの検査をしてみましょね」と言って、血液検査で腫瘍マーカーの検査や、腹部CTをオーダーした。結果はまるで何ともない。「すい臓がんではないですよ」というと、「え~間違いじゃないですか?」と言って、信じてもらえない。検査結果をひとつづつ説明しても「本当ですか?」と言ってまるで取り合ってもらえない。もともと学校の先生をしていたという。「ネットではチャットGPTでも調べてみたらすい臓がん、それも末期のすい臓がんの診断だった」という。
体調が気になると、ネットやチャットGPTで病名や治療法を検索する方は多い。ネットは便利な一方で、ネット検索には、思い込み(認知バイアス)が生じやすい仕組みがある。ネットの検索サイトは、利用者の過去の閲覧履歴や検索内容をもとに、「関心がありそうな情報」を優先的に表示する。これをレコメンド・アルゴリズムと呼ぶ。
一見、便利なようだが、検索している人の考えを先取りして同じ方向の情報ばかりが表示され、別の意見が入りにくくなる。いわゆる「エコーチェンバー(echo chamber)」だ。ネットの中では自分と同じ意見や考え方だけが反響し続け、異なる意見が跳ね返されて届かなくなる状態のことだ。
こうしたときはネットのエコーチェンバーから出て、外部の第三者に相談することが大事だ。先の男性もネットのエコーチェンバーの中で極端な思い込みに陥ってしまったのだろう。帰り際に「これが本当の現実の世界なんでしょうか?」と哲学的な言葉を残して、胃カメラの予約をされてかえって行かれた。
