
春らしくなった日の外来。いつも老人性うつや不安症で外来受診してくる80歳台の高齢女性、春らしい装いでこられたので、「春らしくて若々しい服でいいですね。若返りましたね!」と言うと、「外出するのが億劫でなくなった」という。いつも一緒の年下のご主人がこられないので、「ご主人なしで独りでこらられましたか?」と聞くと。「あまり一緒にいると主人にも迷惑がかかるので、一人できました」という。「でも、いいご主人ですね」というと、急に表情を曇らせて、「主人にはいつも迷惑ばかりかけていて申し訳ない」という。「いいじゃないですか。頼りになるご主人ですから」というと、「でも私のことでいつも心配ばかりかけていて、申し訳ない・・・」と言って、ますます表情を曇らせる。せっかくほめてあげたのに逆効果だったようだ。ほめ過ぎは良くないと思った。
別の外来の患者さんは40代の働き盛りの男性で、健診でHbA1cが9.1もあった患者さんだ。本人の希望で栄養指導と減量だけで半年ほど経過をみたら、なんと薬なしで6.5まで下がった。「薬なしでここまで下がったのは優等生ですね。HbA1cが高かったときは何かあったんですか?」と聞くと、「実は母の介護で家の中が大変なときでした。食事が不規則で暴飲暴食気味だった」とのこと。「今はどうですか?」と聞くと、急に表情を曇らせて「実は母はなくなって、介護の負担から解放されて・・・」と言って、目頭を押さえられた。
いろいろな事情を抱えている方が外来には来る。良かれと思って言うほめ言葉も時には逆効果だ。
前職のとき院内クレームの担当をしたことがある。そんな中で「明るすぎる職員に出会うとますます気が滅入る」という意見箱の投書があった。なんとも難しい問題だ。