
2018年の夏休み、アムステルダムを訪れた。オランダはヨーロッパの介護保険発祥の地とも言えて、いろいろ学ぶべき点も多い。そこで今回は日本でも話題のオランダの訪問看護システム「ビュートゾルフ(Buurtzorg)」を取り上げよう。
ビュートゾルフとはオランダ語で、「地域ケア」のことである。ただ、ここで言うビュートゾルフは訪問看護・介護、リハビリの機能を持った、オランダの国内シェア率60%以上を誇る非営利の在宅ケア組織のことである。2007年に1チーム、4人の看護師で起業した組織は、たった7年のあいだに約750チーム(約8,000人)が活躍する一大組織へと急成長を遂げる。現在、ビュートゾルフはオランダにおいて、年間7万人の在宅患者をケアしているという。
ビュートゾルフでは1チームが最大12人の地域ナースと呼ばれるスタッフで構成されている。このチームは看護師が7割を占め、看護師中心の構成となっている。そして看護師の3割以上が学士レベルという専門職集団だ。そしてそのほかのチームメンバーには介護職やリハビリ職がいる。
ビュートゾルフが他の在宅ケア事業者と大きく異なるのは、機能別に分業することなくチームでトータルケアを実践していることだ。そしてビュートゾルフのそれぞれのチームには大きな裁量権が与えられていて、自律したチームであることにある。
さて、オランダでビュートゾルフがこのように急成長したワケは何だろう。その背景には、それまでの在宅ケアに関する医療従事者や利用者の不満が背景にあった。オランダでも1980年代までは、村落などの地域では住民に対し、少人数のチームが予防や看護、介護を行う地域に密着型のトータルケアが存在していた。ところが1990年代に入ると、在宅ケアの市場化の圧力が強まり、地域に寄り添っていた在宅ケア組織や福祉団体、病院などが統合され大規模化した。利用者のアセスメントも個々の患者を考慮するものではなく、基準が全国で統一された画一的なものになった。そしてケアの評価も成果や質ではなく、看護・介護・リハビリサービスをどれだけ提供したかによる出来高払いが普及した。
その結果、それまでの地域ごとの包括ケアは縮小し、分断的で画一的なサービスとなってしまった。こうした中、利用者も細切れサービスに不満をもち、また、看護師もケアの一部を受け持つ担当者として働かざるを得なくなった。そしてこうした自律性とプロフェッショナリズムを欠いた自らの仕事に不満を募らせていった。そして看護師の在宅ケアからの離職が相次いだ。こうした中で誕生したビュートゾルフモデルは、利用者や看護師から圧倒的な支持を持って迎えられたというワケだ。
こうしたビュートゾルフの活躍もあってオランダでは在宅看取り率が31%と高い。日本の在宅死亡率の倍以上だ。このため病院死亡率が日本の半分以下だ。訪問看護がこのように地域に行き届けば日本でも在宅における看取りも増えるのだろう。アムステルダムの運河を窓から眺めながらそんなことを考えた。
