
2型糖尿病で、あれやこれや手を尽くしてもHbA1cが8以上からなかなか下がらない。この患者さんに外来でマンジャロを使ってみて驚いた。週一回皮下注して1か月もすると、食欲が落ちて体重減少が起こり、HbA1cも一挙に7近くまで下がった。いままでの苦労はなんだったんだろうという思いがした。久々に新薬の威力を体験した。
でもマンジャロとはおかしなネーミングだ。イーライリリーが開発した薬だが、由来は分からない。アフリカ最高峰のキリマンジャロに名前に由来するのか?マンジャロの効果を体験して、さもありなんと思った。
マンジャロはインクレチンという消化管ホルモンの関連薬だ。インクレチンは食事の摂取などにより消化管内分泌細胞から分泌され、すい臓のランゲルハンス島のβ細胞からインスリン分泌を促進する働きがある。
インクレチンにはGIP とGLP-1とというホルモンがあり、マンジャロはこの二つのホルモンの受容体に作用するペプチドだ。GIPを分泌する消化管内分泌細胞はK細胞とよばれ、GLP-1を分泌する細胞はL細胞と呼ばれ、両方とも小腸粘膜に存在している内分泌細胞だ。
この内分泌細胞には電子顕微鏡でみると特徴がある。消化管内腔にセンサーの微絨毛を突き出して、細胞の基底部にホルモンの分泌顆粒を蓄えている。この内分泌細胞は消化管内部の状況をセンシングしてそのシグナルを基底部に伝えて、ホルモンの分泌顆粒を門脈中に放出する。いわゆる開放型内分泌細胞だ。
このメカニズムを電子顕微鏡で発見したのが著者の新潟大学医学部の博士課程の指導教官だった藤田恒夫教授だ(写真)。当時、藤田教授が言っていたのは胃と小腸、膵臓が一つの内分泌系を形成しているという考えだ。これを藤田教授は胃腸膵内分泌系(GEP:GastroEnteroPancreatic System)と名付けた。教授はこのGEPと言うネーミングがいたく気に入っていて、なんと関連の国際会議にGEP国際会議と名付け、学会のお土産にGEP饅頭を配ったくらいだ。
マンジャロを使って感激したと同時に、50年も前の消化管内分泌細胞の電子顕微鏡の画像を思い出した。新薬の恩恵の前に藤田教授のような多くの先人たちの活躍があったことを忘れないようにしたいものだ。