エッセーの投稿

メネ・メネ・テケル・ウパルシン


 先週の衣笠病院の朝の礼拝で聞いた旧約聖書のダニエル書5章のアラビア語の呪文、「メネ・メネ・テケル・ウパルシン」を聞いて以来、この呪文が頭の中に住み着いてしまった。「メネ・メネ・テケル・ウパルシン」(Mene, Mene, Tekel, Upharsin.)とは「数えたり、量ったり、分かれたり」という呪文の言葉だ。なんだかアラビア算術のような呪文だ。

 紀元前6世紀、カルデヤの王ネブカドネザルはイスラエルの都エルサレムを包囲してその王エホヤキムを捕らえ、神殿にあった金銀の器を略奪したうえ、イスラエルの民を奴隷としてカルデヤの都バビロンに連れ去った。その中に若きダニエルもいた。ダニエルは選ばれてカルデヤの言語や学問を学び、たちまち諸学に熟達して、さらに諸々の前兆や夢の解明ができるようになった。

 ネブカドネザルの息子ベルシャザル王の治世、王は臣下を集めて盛大な酒宴を催した。宴が進むと興に乗り、父王がエルサレムの神殿から奪ってきた金銀の器を取り寄せ、それで酒を飲みながら金銀銅鉄木石などの偶像を讃え始めた。

 その時、空中に人の手が現れ、宮殿の壁に「メネ・メネ・テケル・ウパルシン」という謎めいた言葉を書きつけた。しかし誰もその言葉の意味が分からなかった。

 だがダニエルには分かった。彼は王の前に出て次のように述べた。

「ベルシャザル王よ。あなたの父ネブカドネザル王は、心が高慢で驕っていたため、一時は王位を追われ、野馬とともに暮らし、牛のように草を食べて生きておられました。しかしとうとう神がいと高い所にあって人の世を治めているのだと知るようになられました。あなたはあの方の子で、そのことをよくご存じなのに、へりくだることもなく、高慢にも神の家の器で酒を飲みながら、金銀銅鉄木石などの偶像を褒め称えておられます。それゆえ、あなたの全てを司っておられる神がこの言葉を書かれたのです」。

 「『メネ』とは『数えた』という意味で、あなたの治世が数えられておしまいになったということです。『テケル』とは『量った』という意味で、あなたが秤にかけられて目方が足りないことがはっきりしたということです。『ウパルシン』とは『分かれた』という意味で、あなたの国が分かたれてメデアとペルシャとに与えられるということなのです。」

 そして事実、その日の夜その通りになった。この呪文は「神への畏敬の念を忘れた結果、滅びを迎える」という厳しい警告だった。