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健診病


 横須賀の衣笠病院で初診外来を行っている。すると衣笠病院の敷地内にある健診センターから健診や人間ドックで異常値を指摘された患者さんが回ってくる。先日もC型肝炎の抗体が陽性と指摘された患者さんが外来にやってきた。早速C型肝炎のRNA定量測定したらマイナスだった。過去の感染か抗体検査の擬陽性だろう。本人にその結果を告げたら。「こんなこともあるのですか?昨日は今日の結果を聞くのが心配で眠れなかった」という。

 健診人間ドックで異常値を指摘されて心配顔でやってくる患者さんは多い。最近では腫瘍マーカーが人間ドックのオプション検査になっているので、腫瘍マーカー異常で外来を訪れる方が増えた。腫瘍マーカーのトップ5はCEA、CA19-9 、CA125、AFP、PSAだ。

 CEAは喫煙や加齢だけでもあがる。CA19-9は胆道系の良性疾患でもあがる。CA125は月経中に上がる。AFPは脂肪肝や慢性肝炎でもあがる。PSAは前立腺肥大や前立腺炎でもあがる。み~んな擬陽性だ。健診や人間ドックでこうした腫瘍マーカー上昇で来られる方は、みんな夜眠れなくなり、食欲が落ちて本当の病気のようになる。こうした病気をわれわれは「健診病」と呼んでいる。なんで健診病が増えるのか?理由は以下だ。

 健診や人間ドックはスクリーニング検査として、疾患見逃しを防ぐため、検査の感度を優先している。これをもともと低リスクの比較的若い一般人の集団に一律で行っている。しかも基準値は統計的に95%ルールで、5%は機械的に異常値にしている。

 この三点セットで運用されているため、 偽陽性が必ず一定数以上出る構造になっている。感度が良すぎる火災警報機のようなものだ。タバコの煙でも鳴り響く。

 「健診病」はこの制度による副作用だ。健診病とは、統計的に必然の偽陽性によって患者の不安心理をあおる。その不安に巻き込まれた医療者が防衛的になって過剰検査を重ねる。ふだんは流れの静かな日常が、健診による擬陽性によって、一気に滝つぼに落ちていく。

 滝つぼに落ちる前にまずは健診では擬陽性があたりまえと考えて落ち着くことだ。本物の火災はめったにない。

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