エッセーの投稿

温泉MAC


 外来にやせ型でせきと血痰がでるという高齢女性がこられた。10年も前にも時々血痰が出たことがあるという。これだけ聞いただけで思い浮かべる疾患は、肺の非定型抗酸菌症だ。非定型抗酸菌症は非結核性抗酸菌症や肺MACともいう。MACとはMycobacterium avium complexのこと、非定型抗酸菌症で最も多い原因菌種だ。この患者さんには、まずは胸部レントゲンとCT、原因菌を特定する喀痰PCR検査をオーダーした。

 なぜか肺MACが国内で増えている。特に東京・神奈川、大阪や九州に多いという。非定型抗酸菌は結核菌と似ているが、異なる菌だ。人から人への感染はない。もともと非定型抗酸菌は温暖で湿潤な土壌や水場にも生息している菌だ。東京・神奈川で多いのは、医療機関へのアクセスが良く、診断されやすいということもある。とくにPCR検査のおかげでよく発見されるようになった。

 肺MACにはこんなエピソードもある。九州のある温泉地で働く女性が、長年続く咳と微熱で病院を受診。検査の結果、なんと非定型抗酸菌のMACが検出された。でもこの女性は結核のような症状はなく、元気そのもの。医師たちが不思議に思って調べてみると… なんと彼女の働く職場の温泉水からも同じ菌が検出された。つまり、彼女は毎日、職場の温泉の蒸気を吸い込んで、MACと同居していたわけだ。このため「温泉MAC症候群」とも呼ばれた。

 先述の患者さんに、温泉で働いていたか聞いてみよう。