
現在、薬局で販売されている一般用検査薬(OTC検査薬)は尿糖、尿たんぱく、妊娠検査、排卵日予測検査と新型コロナウイルスの抗原検査、新型コロナウイルス/インフルエンザの抗原検査)の6項目しかない。これらの検査の検体は尿、鼻腔ぬぐい液などに限定されている。
しかし欧米では穿刺血を用いた検査薬がすでにOTC化されている。これにより血糖値、コレステロール値などの生活習慣病やHIVなどの性感染症の検査が手軽に行えるようになる。ところが日本では一向に血液を用いた検査薬のOTC化が進まない。
内閣府の規制改革推進会議は、2020年7月の閣議決定で「血液検体を用いた検査のOTC化について期限を定めて検討する」ことを打ち出した。しかし血液を用いたOTC検査は4年近くも放置されたままである。さすがに2024年11月には再度、「血糖値を含めた検査薬のOTC化について、2024年度内に結論を得る」と閣議決定した。このため2024年3月に薬事審議会医療機器・体外診断薬部会で検討がされた。しかし、審議会では、血液を用いた検査薬のOTC化は「時期尚早」として認められることはなかった。何のために2回も閣議決定したのだろうか?
認められなかった理由は以下である。たしかに患者自らが行う穿刺血を用いた検査薬のOTC化にはリスクが伴う。まずその検体採取の感染性の問題や血液で汚染された検査キットの廃棄の問題だ。また検査結果の精度も問題だ。OTC化された検査キットでは血糖値やコレステロールが精密な定量値で示されるわけではない。カラースケールなどの幅をもった半定量の方式で結果が示される。
こうしたことから検体採取方法、検査キットの廃棄方法、結果の解釈や結果に基づく医療機関への受診についてのガイダンスが必要だ。そして研修を受けた薬剤師が検査キットの取り扱い方法や、検体採取方法、そして結果に基づく受診勧奨が必要だ。 しかしすでに保険診療におけるSMBG(自己採血による血糖自己測定)については、高度管理医療機器販売業の認可を得た全国2.3万の薬局の薬剤師が機器の取り扱いや手技についての指導を行っている。将来、血液検体による検査キットのOTC化が解禁になればまずこうした薬局において、薬剤師の指導のもと販売すればよいだろう。
とくに血糖検査のOTC化に期待が高まる。糖尿病予備軍は男性人口の17%、女性の9%にも及ぶ。こうした糖尿病予備軍には血糖検査キットがOTC化が必要だ。薬局で血糖検査キットが手に入れば血糖測定のハードルがぐっと下がり、糖尿病の早期発見、早期治療につながる。外来をしていて時々驚くのが、初診の患者で何の症状もないのに血糖値が500を越し、HbA1cも12超えの患者さんが現れることだ。
セルフケア・セルフメデイケーションの時代だ。血液検体による検査薬のOTC化の早期実現を訴えたい。