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ニトロソアミン問題


 今、製薬業界がニトロソアミン問題で揺れている。発がん性のあるニトロソアミンが医薬品製造過程や保管過程で発生するという問題だ。

 日本でニトロソアミン問題が知られるようになったのは2018年である。2018年6月に降圧剤のバルサルタンの原薬から発がん物質であるニトロソアミン類であるN-ニトロソジメチルアミン(NDMA)が検出され、あすか製薬がバルサルタン錠の全ロットを自主回収した。このため厚労省は2018年11月に発がん性物質の管理ガイドラインICH-M7で、ニトロソアミン類のNDMAやNDEAの限度値を定めることとした。

 このガイドラインが厳しい(図表1)。この値はニトロソアミンに毎日暴露した場合、発がんするリスクが10万人に1人増加するという値だ。なおニトロソアミン問題が顕在化した理由は測定装置の技術進歩によって、ニトロソアミンの微量測定が可能になったことにも関係している。

図表1

 この結果、ニトロソアミンによる回収があいついでいる。先のバルサルタンに留まらず、イベルサルタンなどサルタン系に広がった。また2019年9月には消化性潰瘍剤のラニチジン、ニザチジンにもニトロサミン混入がみとめられ、2019年12月にはメトフォルミンからニトロソアミンが検出され、一部の製品が回収対象となった。最近では2024年10月に過活動膀胱治療薬ミラベグロンの製剤からもニトロソアミンの類が発見され、許容摂取量を超えるとして、ロットが自主回収されている。なんと先進各国で2016年から2022年の間にクラスⅠ回収が41件あったがそのうち39件がニトロソアミンによる回収だった。なおクラスⅠ回収とは、重篤な健康被害や死亡リスクによる回収のことだ。

 ニトロソアミンが生成する過程は比較的シンプルだ。アミン類に窒素酸化物(NOx)が結合すると簡単にニトロソアミンになってしまう(図表2)

図表2

 窒素酸化物はいろいろなところにある。空気、水、添加物などいたるところにある。このため医薬品製造過程のそれぞれの段階で入り込む。原薬の製造過程、製剤過程、保管過程のいたるところで生成リスクや混入リスクがありうる(図表3)。

図表3

 このため国内のある企業は空気中の窒素酸化物を除去するフィルターを用いて、製造プロセスにおけるリスク低減を図っている。ただこうして出来上がった製品が保管中に空気にふれてニトロソアミンが生成されるリスクまで抑えることはできない。

 さて先進各国の規制当局も事態を重く見て、ニトロソアミンリスクのある医薬品リストを作成している。厚労省も同様にリストを作成している。各国のリストはほぼ同じで、医療用医薬品の30%にリスクがあるという。日本でも安定確保が必要な医薬品の中にもリスク医薬品がある。どうしたらよいのだろう。これらが回収対象となったら大変だ。

 さらにニトロソアミン問題は食品でも以前から指摘されてきていた。魚缶詰、魚肉ハム、サラミなどにも含まれている。しかしその限界値は医薬品に比べて低い(図表4)

図表4

 以前から漬物と焼き魚を一緒に食べるとがんになると言われていた。漬物中の亜硝酸塩と焼き魚のアミンが結合してニトロソアミンを作るからだ。こうした食品由来のニトロソアミンに我々は取り囲まれている。それで漬物と焼き魚が回収されたという話は聞かない。

 医薬品のニトロソアミンの限度値が低すぎるのではないか?医薬品にはもとともとリスクが付きまとう。このリスクと医薬品がもたらすベネフィットを天秤にかけて医薬品を使うことがこれまでも行われてきた。今回のニトロソアミンについてももう一度、リスクと製剤機能の確保の観点から限度値を見直した方がよいのではないのか?

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