
2000年以来、欧米先進各国でP4Pが診療報酬の支払いトレンドになっている。P4PとはPay for Performanceの略で、質の良い医療にボーナスを与える支払方式だ。米国、英国、カナダ、オーストラリアなどの支払方式に取り入れられている。最近ではおとなり台湾や韓国でも導入が始まったことで話題となっている。
2007年10月にこの実情を見るために英国のロンドンを訪問した。当時のロンドンはまだ金融危機の前夜だったので、まだバブル状態で物価が高くて閉口した。なにしろ地下鉄の初乗り料金が1000円もしたり、テムズ河沿いのホテルが1泊10万もするような状態だった。
さて英国では、P4Pは2004年から開業医(GP)向けの支払い方式に導入された。英国のP4Pは「Quality and Outcomes Framework」(QOF:クオーフ)と呼ばれていた。
QOFでは10の慢性疾病グループに対して146の臨床指標を設定し、指標ごとに標準的な達成目標数値を設定し、目標を達成すれば成果報酬が支払われるという方式である。この結果、実にGPの収入が年間平均4万ドル、それまでの約30%もの増収になったといわれている。診療報酬のアップ率30%など日本では考えられないほどの改定率である。
さて、10の疾患グループは①喘息、②がん、③慢性閉塞性肺疾患(COPD),④冠動脈疾患、⑤糖尿病、⑥てんかん、⑦高血圧性疾患、⑧甲状腺機能低下症、⑨重篤な長期療養を必要とする精神疾患、⑩脳卒中および一過性虚血発作よりなる。
これらの領域ごとに臨床指標が設定されている。たとえば、冠動脈疾患の臨床指標は以下のように設定され、その患者割合ごとに点数がスライドするようになっている。たとえば「コレステロール値が193mg/dl以下の患者割合」では、患者割合が25~60%の範囲で、最低0ポイントから最高16ポイントまで加点される。「アスピリンなどの抗凝固剤を投与した患者割合」では、患者割合が25~90%の範囲で、最低0ポイントから最高7ポイントまで加点される。「β遮断剤を投与している患者割合」では、患者割合が25~50%の範囲で、最低0ポイントから最高7ポイントまで加点される。そしてこのポイントの合計に対して、ポイント単価(175ポンド)を掛け合わせた診療報酬が支払われるというわけである。
この実情をサウスロンドンにある開業医の女医のマリーさんの診療所で見学させてもらった(写真の右から2人目)。われわれが訪れると早速、マリーさんが説明してくれた。「まずNHSのインフォーメーションシステムを見せましょう」と言って、電子カルテの前に案内してもらった。「この患者は冠動脈疾患の患者ですが、テンプレートを開けて、この患者が12ヶ月以内に血圧の記録があるかどうかチェックします。また禁煙指導をおこなったかどうかもチェックするわけです。していなかったら電話で呼び出して次の診察の予約をとるわけです。これがポイントになって収入になるわけですから、患者のフォローの仕方が、QOF(クオーフ)導入の2004年前とはだいぶ変わりましたね。」という。
「収入はどうですか?」と聞くと、「このクリニックでは15%ぐらいの増収ですね。増収分はクリニックの人の雇用に当てました。患者を電話で呼び出したりするのにも人手もかかりますからね。QOFのおかげで患者の日常のケアに目が行き届くようになったし、診療の質はあがりましたね。」
「患者データの電子カルテへの入力は手間ではありませんか?」「そうでもないです。テンプレートのチェックボックスを選んでいけば良いので、そんなに手間でもないです。」
「デメリットはありましたか?」と聞くと「QOFではNHSの監査が増えたのが、ちょっとわずらわしいですね」とのことだった。
サウスロンドンのワクチン接種に訪れる子供たちのにぎやかな声のする診療所の中で出会ったP4Pだった。