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健康保険法改正への期待と不安


 健康保険法等の改正案が4月9日に衆議院本会議で審議入りした。OTC類似薬77成分1100品目に、薬剤費の4分の1の特別の自己負担を設定することが柱の一つだ。

 OTCで代替できる医療用薬剤(OTC類似薬)は保険財源ですべて負担するのではなく一部を自己負担してもらという保険給付の見直しだ。つまり保険給付の趣旨はリスクの高い疾患については保険で、リスクの低い疾患については給付範囲をせばめ自己負担を増やすという考え方だ。

 こうしてその適応となる医薬品77成分1100品目がまずは選ばれた。この法律が通れば来年からいよいよこれらの薬の追加の自己負担が始まる。この新たな制度にたいして、現場の医師として、期待と不安の気持ちが入り混じっている。

 まず期待はセルフケア・セルフメデイケーションの普及だ。いま横須賀にある衣笠病院で初診外来を週2回行っている。初診外来は毎回混み合う。軽症の患者さんから重症の患者さまで様々な患者さんがやってくる。特に最近は高齢者の救急患者が増えてきた。車いすでぐったりしている患者さんから、花粉症で薬をもらいに来る元気な患者さんまで外来に押し寄せてくる。外来は午後の2時、3時まで続くこともある。こうしたなか意識がもうろうとしている患者を診ながら大勢の花粉症の患者さんをみるのは正直しんどい。今回の制度開始で、こうした軽症の患者さんがどれだけ減るかがカギだ。4分の1の特別料金で患者さんの行動変容がどれくらい起きるかに注目したい。

 つぎに不安についてだ。この制度が開始されたとき、患者さんになんと説明すればよいか?「この薬は市販薬と成分が同じなので、保険では特別な扱いになり、薬代の一部が自己負担になりました」と言うのだろうか?舌をかみそうだ。そして「けれど医療上必要と医師が判断すれば、これまで通りの負担で処方できます」と言うのだろうか?そうすれば患者さんはみんな「全部、医療上の必要で処方してください」と言うにきまっている。すると優しい医師あるいは忙しい医師は「それでは保険病名をつけて従来通りの保険負担にしておきますね」と言うのだろう。これではもとの木阿弥だ。

 確かに特別料金から除外されることが決まっているのは、18歳以下の患者、がん患者、指定難病患者、入院患者、そして医師が「医療上必要」と判断した患者だ。

 この「医療上の必要性」がなかなか曲者だ。花粉症の薬はアレルギー性鼻炎では医療用もOTCも適応を同じだ。ただ皮膚そうよう症への適応はOTCにはない。このため皮膚のかゆみには特別料金はつけられない。こうした効能効果の違いがあればわかりやすい。

 ところが、イブプロフェンの適応は関節痛だ。これは慢性関節リウマチの関節痛にも適応がある。このため慢性関節リュウマチでも特別料金の適応になる。だが関節リュウマチは長期にわたり連用するので、自己負担分もかさむ。関節リウマチが指定難病であれば、特別料金の除外対象だが、あいにく関節リウマチは指定難病ではない。こうした慢性疾患の患者の長期連用には配慮が必要だ。

 外用ステロイドも同じだ。その適応は湿疹、皮膚炎等だ。これはアトピー性皮膚炎でも同じで、OTCでも一定の治療が可能なので、特別料金の対象となる。アトピー性皮膚炎ではかなり広範囲に外用剤を使うので自己負担分も高額になる。しかも長期連用となる。こうした疾患への配慮はどうするのか?一般にOTCの適応は広めに定めてあるので、医療用医薬品の適応が含まれることも多い。

 以上のような医療上の必要性と除外条件について詳しいガイドラインがぜひ必要だ。

 そのほか、今回の特別料金は、外来の高額療養費制度にも影響を与える。70歳以上の高齢者には 所得区分ごとに「外来上限額」という外来の高額療養費制度が設けられている。この計算式に入るのは 保険給付対象の医療費のみでOTC類似薬の25%特別料金は入らない。このため高齢外来患者が高額療養費のハードルが高くなる。こうした外来高齢者の不利についてはどのように対処するのだろうか?

 今回の制度改正はOTC類似薬の特別料金の制度の第一歩だ。今後、その適応の医薬品品目が拡大し、さらに特別料金の割合についても変わっていく可能性が高い。こうした制度の運用をどのように行うか、そしてその評価をどのように行うかが問われている。

今回の新設された制度の評価と、さらなる制度見直しに注目していきたい。

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