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おもしろ薬辞典⑮ イベルメクチン


 最近、老健で久しぶりに疥癬(かいせん)患者に出会った。数日前から両手の指が赤くなってかゆみが出たと言う。「白癬菌症かな?」と思って皮膚科に併診してもらった。そしたらなんと疥癬だった。皮膚トンネルに虫卵もみつかった。

 疥癬はダニが原因だ。ヒゼンダニなどが皮膚にトンネル掘って、そこに卵を産み付ける。これがかゆみの原因だ。みるからにかゆそうな卵だ。そこで皮膚科医が処方したのが、なんとあのイベルメクチンだ。イベルメクチンが疥癬にも効くとは知らなかった。

 イベルメクチンは、1970年代に北里大学の北里研究所にいた大村智(おおむら さとし)博士が、静岡県の土壌から採取したサンプルから発見した。その中から放線菌の一種であるストレプトマイセス・アベルミチリス(Streptomyces avermitilis)を発見した。この菌が作り出す物質に、寄生虫をやっつける強力な力があることがわかった。

 その後、アメリカの製薬会社メルク社と共同研究を進めて、1981年にイベルメクチンが誕生する。最初は家畜の寄生虫病治療薬として使われ始めたけれど、その効果があまりにもすごくて、すぐに人間にも応用されるようになったんだ。

 特にアフリカや南米で猛威をふるっていたオンコセルカ症(河川盲目症)という寄生虫病に対して、イベルメクチンは劇的な効果を発揮した。イベルメクチンはオンコセルカ症による失明を防ぎ、何百万人もの命を救った。

 この功績が認められて、2015年に大村博士とメルク社のウィリアム・C・キャンベル博士がノーベル生理学・医学賞を受賞した。まさに土の中の放線菌が、世界を救ったという感じだ。

 このイベルメクチンが疥癬にも効くとわかったのは1990年代の日本でだ。イベルメクチンが高齢者施設で問題となっていた疥癬(かいせん)の原因となるヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)に対しても効くことが分かった。イベルメクチンはダニの神経系に作用して、動けなくさせてしまうという。

 日本人がみつけた特効薬は、「ストロメクトール」という商品名で、もともとメルク社だったMSD社が製造販売している。イベルメクチンを処方するときには大村博士を思い出そう。

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